📍旅路
相変わらずマラケシュ郊外のファームにステイしてます。年末年始は一旦出ないといけないことになり、クリスマス頃から一時的にモロッコのどこかへ移動する予定だけど、あと少しここでのんびり。
🧳ファームでの会話から、日々の記録
今週は、このファームで暮らす人々との会話で、印象に残ったものをいくつか、小話形式で書き送ります。
🥣アディルとの話
先週のメルマガにも登場した、住み込み陶芸家のモロッコ人、アディル。彼の陶芸作品は、彼のおおらかで明るい雰囲気がそのまま出たような作品で素敵だ。忖度のない色、とでも言おうか。パッと見て良い色だね、と声が出るような、複雑ではないが気持ちの良い発色の作品。こせこせしたところのない、大らかな作りと形。私はアディルの作る陶芸が好きだ。
そんなアディルの作品がどこで使われているかというと、たとえばこのファームのオーナーの家や、ボランティアワークの人のための住まいの食器、照明カバーなどのインテリア、家のタイルなど。それに加え、オーナーがマラケシュで運営しているラグジュアリーなカフェの食器や小物になっている。さらにショップが併設されていて、ショップでは彼の作品の販売も行っていると聞いていた。
しばらくして、タイミングが合って噂のオーナー運営のカフェに行った。ドーナツやキャロットケーキ、Shokupan Breadすなわち日本風食パンなんかが並んだ、ファンシーで高所得層向けのカフェだった。アディルの陶芸作品もショップですてきに並べられていて、きっと買いたい人はいるだろうと思った。ちなみに、ファンシーな店なのでしっかりヨーロッパ価格で、カップで5-20€くらい、花瓶など大きなものは50-70€くらいで売られていた。
一方でアディルからは、僕も旅なんかしてみたいけど、自由に旅するほどはお金がないし、ビザもややこしいし....と以前聞いたことがあった。あの値段で売られているのに、こんなに技術があるのに、海外に行けるほどのお金が無いのか?と思い、ショップで売れた値段の一部はあなたに入ってくるの?と聞くと、入らないという。月給制で働き、オーナーが希望するものを作るので、マージンは特に無いのだと。
住み込みで住宅費・光熱費などが掛かっていないこと、月給は一般的なモロッコ平均よりは良い。でもそもそもその平均は月300USドルくらいなので、確かにモロッコで暮らすには余裕があるだろうけど、それは自分の作品が使われるカフェで気軽にご飯を食べられるほどではないし、まして海外旅行には十分ではないだろう。
あなたは技術があるのだからそれはおかしい、作品の販売をするなら何%かの収益があなたにも入るか、もう少し収入が上がっても良いはずだと私は言った。でもアディルはこう言った。
「確かに他でもっと良い給料で自分を雇いたいというオファーはあります。でも私はここが好きだし、街には住みたくないし、ここにいる犬のジーナやタジン、猫のムシーナ、彼らと一緒にいたいのです。
それに、働いて、食べて、眠る。そこで寝ているジーナやムシーナと一緒。それだけだと思っています。」
働いて、食べて、眠る、そこで寝ている犬や猫たちと同じように。その一言があっけらかんと出てきたことが、妙に心に残ったのだった。
🇫🇷ユリスとの話
ボランティアワークをしているファームに、フランス人のユリスがやってきて、1週間ほど滞在していった。
彼と会ったのはアルメニアで、当時彼も一人で長い旅をしていた。フランス領ニューカレドニアで5ヶ月ほど働いたのちに、インドネシアなど東南アジアやインドに行き、コーカサスにやってきて、滞在しているところだった。アルメニアのエレバンとジョージアのトビリシで同じホステルで、何人かで一緒にデイトリップしたり、飲みに行ったりした。その後フランスに行く際に連絡を取り合い、パリでは大変お世話になった旅仲間だ。
ユリスと話していると、あまり知らないフランスの人々の話が聞けるのでおもしろい。中でもやっぱりフランスらしいなと思うのはデモの話だろう。
パレスチナのガザでの非人道的な攻撃が止まない。戦争の始まりがどうあれ、いまの攻撃はジェノサイドだよねという話になった時、パリでパレスチナ反対のデモに姉や友人と一緒行ったと話していた。私がパリにいた時も、ユリスを通じて彼の交友関係内に居たからというのはあるかもしれないけど、彼の友人らからデモがあったら見て行けたのに!と言われたことがあった。そんな言葉が気軽に出てくるのが結構新鮮で驚いた記憶がある。
革命の国フランス、市民が納得いかないことに対して声を上げること自体を誇りに思っている節は、フランス各地を歩く中でも、人々の口調から感じることがあった。みな口を揃えて「まあそう在ろうとしているだけで実情はアレなんだけど...」と苦笑するところまでセットではあるものの、政治的的な発言や行動、デモなどの運動が総じて敬遠されがち、タブー視されがちな日本に育った身としては、かなり一般市民の感覚に乖離があると感じたりする。
一方で、やや閉鎖的にも思われるフランスのエピソードもあった。
先のパレスチナのデモの話に戻る。ユリスによれば、フランス政府はパレスチナを支持するデモを禁止したため、ヨーロッパ他国に比べればデモの規模はかなり小さいのだという。禁止なので、デモに参加した人たちに対し、警察官がやってきて罰金の切符を切るのだそうだ。
さらに、デモに参加した人の中でも、アラブ系、アフリカ系っぽい顔立ちの人を狙って切符を切られると言っていた。ユリスの友人でも、アフリカ系の友人ばかりいつも切符を貰って帰ってくるのだという。移民も多いフランスでは、パレスチナ支持の大きなパイであるアラブ系、アフリカ系の人々は、切符を恐れてデモへの参加がかなり少なくなっているらしい。罰金だけでなく生活を失う恐怖もあるので、断念せざるを得ないのだそう。
フランスは実際旅した時は「事前に予測していたより排他的じゃないな」という印象を持ったけれども、いろいろ話を聞くと結構厳しい面もあるのだなと改めて思う。
あまりとりとめのない話になってしまったけれど、たまにはこういうのも良いでしょう。もうすぐクリスマス、そして年末。後半は少々サボりつつも、このメルマガも1年になる。今年もあと2回くらいは書けたらよい。ではまた次回に。